多自然型川づくり
1990年から旧建設省が実施し始めた河川事業の1つです。名前のとおり、生物にとった良好な生息・生育環境を可能な限り改変しない(改変する場合でも最低限に留める)自然環境に配慮した河川工事。多自然工法の1つでもあります。
多自然工法の歴史や具体的な技術例
従来の河川は治水が最大の目的でした。つまり、大雨や台風などにより河川の流量が急激にふえた場合でも、周辺の家屋などが浸水しないようにするために、いわゆる「3面張り工法(河川の底と両側の壁をコンクリートで固めること)」が多くの河川で採用されてきました。
するとどうなるか?生物にとっては、非常に住みにくい環境になり、生物種数が減少してしまいました。そこで、20年以上前から、治水・利水だけでなく、生物の生息環境にも配慮するため、この仕組みが実践されています。河川法の改正も後押ししましたね。
多自然型川作りの具体的な環境保全技術は様々あります。大きなポイントとしては、河川の自由度を高めることにあります。
これは、川幅を広くすることで、河畔林などをはじめとする河畔植生(河川植生)、中州の創出などが可能になります。つまり、水辺の自然が改善・回復されます。 その後は、川がまるで自立するかのように、より「自然らしい」河川の自然環境が構成されるようになっていきます。
さらに、細かい例をあげてみましょう。たとえば・・・
直線的な流路→蛇行する流路へ。
コンクリート三面張り→川幅・流路変更による水辺自然環境の創出(法面への植栽や片岸拡幅(コスト抑制+元の素材をいかせる)など)
石の利用による新たな自然環境の創出(寄せ石(河岸防護にもなる)や転石など)
以上の環境保全技術によって、河川環境は「単調」から「複雑化」されることが分かると思います。本来の自然生態系は、複雑なシステムで成り立っていることを理解する点でもいい例といえそうです。
その場所に適した手法を採用することが望ましいことも忘れてはいけないでしょう。その時に、自然環境の連続性、多様性(さまざまな環境要素がモザイク状に分布するなど)に配慮することも必要です。
なお、この分野で有名な先生は、(故)森清和先生、山岸哲先生(山階鳥類研究所)、吉村伸一先生(現:株式会社吉村伸一流域計画室、元京都大学大学院教授)です。